素晴らしい日本人に聞くシリーズ

第2章 神職として 人として
『鶏鳴(けいめい)も心をこめて』

対談 上野貞文様
左 蘇れ日本人の会 会長 藤原美津子  右 鹿島神宮名誉宮司 上野貞文様  

藤原美津子: こうしてご縁をいただいた上野様ですが、二十年に一度の、第六十一回の伊勢神宮式年遷宮の祭儀部長、そして十二年に一度の鹿島神宮の御船祭のときには、宮司として大変に大きなお役目をしていらっしゃいます。

式年遷宮といえば、第六十回のときには鶏鳴役(※)をされたとのこと。まず、そのときのことをお聞かせ願えますか。

上野貞文様: 鶏鳴役については、無事に責任を果たしたわけですけれど、果たすに至っては、十日の間、懐中電灯をもって、山奥に行って喉を鍛えたということがあります。

上野様 鶏鳴のお話
5時の開門とともに早朝参拝に
ご一緒させていただきました。

藤原美津子: 十日も、山の中に懐中電灯をもって夜行とは、きっと、さぞかし周りは真っ暗だったのではと存じますが。

上野貞文様: それは真っ暗です。細い道の山道で猪が出るようなところですから。

それでも、いつも昼間子どもを連れて遊びに行っている山ですから、事情はよくわかっているわけですよ。知らない山には行けないわけです。

藤原美津子: そうですね。

上野貞文様:そうですよ。だから、子どもを連れて、散歩がてら山に登って行って場所を見てくる。

それに、民家から大分距離があるところまで行かないと、大きな声で「カケコー」とやっていたら、気違いが山の方で叫んでいるということになるじゃないですか。

しかも、どんなに大きな声をあげても絶対に聞こえないというためには、やはり八時過ぎの夜にならないといけません。

藤原美津子: それだけ練習されると、本番のときに、ものすごく響く、素晴らしいものになられたと思うのです。

上野貞文様: そうですね。私の個人的なカケコーのよさとかまずさとかは、当時は直接聞いたことはなかったのですけれど、今回の遷宮の前に、あるインタビューで聞くことができました。

もう一人の方が一緒にインタビューに応じていて漏らされたことなのですけれど、「神宮に長年勤めていたけれど、これから、神様がお移りになる列の中にいて、いよいよというときには緊張しますよ、誰でも。そのときに、シーンとしている中で、カケコーと唱えた(上野氏の)発声に、身が震えるように感動しました。」と、そのように言ってくださったのです。


月光で照らされた宇治橋にて

余談の雑談の中で言ってくださったのだけど、それをお聞きして、人がそういうふうに感じてくれたのだとすれば、やはり神様もご満足いただいたのかなと思いました。

藤原美津子: そのときの上野様のお声の中に、神様の何かの気が入られたような気がしてならないですね。

上野貞文様: そうかもしれませんね。ただ喉を鍛えているだけではなくて、どんなふうにしたら、カケコーという三声が、うまくいくかということをいろいろと工夫しました。

第一声目は声を少し落として控えめにして短めに、二回目は高くして少し長く、三回目は精一杯喉で、鍛えた分だけカケコーと響いたのですよね。それに皆感動したのだと思うのです。


鶏鳴(けいめい) は、式年遷宮のクライマックスである遷御のときに、御神体がお宮からお出ましになる夜八時の前に唱えられます。

以下おかげ横丁様の「暮らしのぞき箱 第164号 寒露.pdf」からの引用です。

この声は鶏鳴所役( けいめいしょやく )といって神宮の神職のなかから選ばれた人が担当します。
瑞垣御門の下で、東に向かって、最初のカケコーは低く、徐々に声を高くしていき、三声目は大きく、長く伸ばすのだそうです。日本神話の天岩戸開きの際には、長鳴き鳥が鳴きますが、まさに時を告げるのは鶏なのです。神話さながらの儀式です。また内宮はカケコーと唱えますが、外宮の鶏鳴はカケロー、そして北に向かって三声を発するのが恒例です。

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