素晴らしい日本人に聞くシリーズ
第五章
100年続く会社は「創業者の哲学を正しく後世に伝える」
藤原美津子:鳥羽会長のご著書『私が歩んできた道』という本を読ませて頂きました。素晴らしいご本で、心に響く数多くのお言葉がありましたが……。
鳥羽博道会長:あれは私が過去の朝礼の時に話したことを、社員が一冊の本にまとめてくれたんです。「鳥羽語録」という形で。
そして今年は、それを社員が「日めくりカレンダー」に仕上げてくれたんですね。それも間もなく会社をやめて行く社員なんですが……。
藤原美津子:その社員の方は、会社をやめるのに、カレンダーをつくろうと思われたんですか?
鳥羽博道会長:やめることはわかっているのに、ずっと前から計画してまとめてくれたんです。ですので、ぼくもその社員に「なぜ?」と聞きました。
そうしましたら、「100年続く企業とは、いかにして創業者の哲学を引き継いでいくか、持続して行くかにかかっています。だから社長の言葉をカレンダーに残すべきだと思ったんです」と、言ってくれたんですね。
藤原美津子:「すばらしい社員の方ですね。またそのような社員を育てられた鳥羽会長も素晴らしいと思います。
正しくその社員の方がおっしゃる通りで、初代の方の思いをいかに後世に伝え、引き継いで行くか……が大切だと思います。
表面的なものではなく、哲学の本質そのものを伝えて行くこと。引き継いでいく人間の細胞のひとつひとつに、その哲学が刻まれていくことがとても大事なことだと思います。
神道の世界でも同じです。正式な参拝作法とされる二拝二拍手一拝という行為は変わらないのですが、人によって、手の打ち方、お辞儀の仕方は様々です。
それが胸に響く場合もあれば、響かない場合もある。形は同じようにしていても、そこに込められた心、精神が違うのです。
だからお辞儀の仕方や、手の打ち方に違いが出てくる。似ているようで、本質はまったく違うものになってしまうのです。
私が皆様にお教えするのは、神様にご挨拶する場合、いかに心を込め、いかに伝わるようにするか。
会社を思い、社員を思い、社会の人々を思い、きちんとご挨拶をすることの意味と大切さをお伝えします。
これはごく当たり前のことで、宗教でもなんでもなく、基本的な教育というものだと思います。
鳥羽博道会長:そうですね。『ドトールコーヒー』が100年続く企業であって欲しいし、また常に「仕事を通していかに人の役に立てるか」ということを、社員のひとりひとりに考えてほしいですね。
人の偉さとは、地位とか名誉とかではなく、人をよりよく生かせることだと思います。
教えによって、人を生かし、人を幸せにする。商道とは、感動を呼び起こす商品をつくるということだと思います。
藤原美津子:鳥羽会長のお考えは、今、社訓として掲示されていますね。最初に、「誠実」次に「正義感」、「責任遂行」「積極果敢」「自己峻厳」「謙虚」と続きます。
鳥羽博道会長:はい。人間のあるべき姿として、この6つの言葉を入れています。
商品の質、店の質、サービスの質というのは、すべて人から出発しています。つまり、商品の「品質」とは、「人の質」ということです。人間の質が高まらない限り、いい商品もいい店もいいサービスも生まれません。
ですので、いかに人の質を高めるか、いかにレベルの高いものを求めるかが、製品の質を高め、企業を成長させていくことだと思います。
藤原美津子:業界で3年連続、「顧客満足度ナンバー1」の地位を確立されている『ドトールコーヒー』ですが、鳥羽会長はさらに大きな夢を描かれていると思います。
『ドトールコーヒー』の未来には、どのような姿があるのでしょうか?
鳥羽博道会長:「現在のさらに上を目指したいですね。具体的には業界一位だけでなく、世界のトップブランドに押し上げたい。
リーズナブルな価格、ヘルシーでハイクオリティー、そしてファッショナブルでもあるブランド力を持ちたいと思っています。
ここで言うリーズナブルな価格とは、値段が安いということではありません。お客様に価値を認めてもらえる納得のいく価格、という意味です。
ヘルシーでハイクオリティーな製品。そしてファッショナブルなイメージを備えたもの。
たとえば、贈答用のコーヒーといえば『ドトールコーヒー』というようなブランドに育てるために、常に上を目指して努力していきたいと思っています。
